まえがき
2026年3月27日、ミリアニOVA「アイドルマスター ミリオンライブ!~いつか、真ん中で~」が発売となった。そして4月1日、作中で披露された新曲『飛べない僕は泳いだ』も各種媒体でリリースされた。
栄えある「ミリアニOVA 01」を飾った名曲について、あれこれ考察してみようと思う。
考察にあたり、OVAについての言及は”一点”を除いて行いません。ただ楽曲を語るだけの記事です。
OVAについては同僚のアツいnoteを参考にしていただければと思います。
作詞・作曲・編曲 青柳 諒
歌詞考察
表層
『飛べない僕は泳いだ』というタイトルの通り、本曲の舞台は“水中”だ。
『水中キャンディ』,『瑠璃色金魚と花菖蒲』,『深層マーメイド』……
ミリオンにはいくつかの水中曲があるけれど、そいつらには必ずと言っていいほどネガティブな感情が漂う。そこに共通しているのは「理想と現実の乖離」じゃないかと思う。
言いたいことが言えず、素直になりたいのになれず。
そうして澱のように溜まっていく不満が、いつしか気道を塞ぎ、逃げ場を失い、胸を張り裂かす。
水中曲に感じる悲壮感は得てして、自分に嘘つき続けてきた故の”閉塞感”から来ている。
その例に漏れず『飛べない僕は泳いだ』もまた、
吸って吐いて苦しくなって
自分だけが異物みたいだ
その”息苦しさ”を冒頭から描いている。
ひどく疎外感を感じるパートだけど、更にしんどいのは”主人公自身がここにいることを選んでいる”ってことだ。
そうさ 飛べない僕は泳いだ
一人溺れそうになる日でも
ずっと羽を欲しがっていた
しんどい思いをしながらも、「自分だけが異物みたいな場所」に執着している。傍から見ると、それはすごく歪な努力のように思える。でもそれは、彼女自身の”憧れ”の証明でもある。
タイトルの通り、本曲のゴールは「飛ぶ」だ。主人公の行動はすべて「いつか、飛ぶため」に集約されている。
だからこそ主人公が「羽」を欲しがっていることも、どれだけ苦労しようとも空に近い”表層”にこだわり続けていることにも説得力がある。
けれど(逆接)
けれど(逆接)
違うんだ(否定)
だからこそ、この三重否定に「んっ?」ってなったし、
足もおぼつかないまま
渦いている深い海の底で
僕は今 息をしている
いつのまにか泳ぐことを諦めて”深層”へと落ちている姿にすごく違和感を覚えたんだ。
あれだけ固執してたのに何故?
目標から遠ざかったくせに、どうして一息ついてんの?
頭の中が???でいっぱいになる。
MVでも美也の渾身のドアップ入りますけども、この曲はここからがヤベェ。殺る気マンマン。
ここからが主人公、もとい“宮尾美也&マイペースユニットの逆襲”なんです。
深層
臆病で立ち止まってた僕に
翼を教えてくれた
本曲には「羽」と「翼」。
2つのワードが使われている。
そして明確に使い分けている。
私の手元のAIによれば、「羽」とは「羽毛、または羽毛が生えた部分」のことを指す。いわば「飛ぶためのパーツ」である。
では「翼」はどうだろう。
私の手元のAIによれば、「翼」とは「飛ぶための構造・器官」のことを指す。つまり「飛ぶためのシステム」である。
1番から描かれているように、主人公は海の住人だ。大空へ飛び立つ資格もなければ、そもそもそういう風に出来ていない。「羽」が生えていないのだから、「飛ぼう」なんて憧れは不相応に違いないだろう。
だけど、「翼」ってやつはそうじゃない。
そいつは目に見える所には生えていないし、生まれながらに持っているものでもない。不相応にも「飛ぼう」と決意した精神に宿る剛毛であり、後天的に構築できるマインドハックなのだ。
最初に空を飛んだ鳥は
翼を広げた格好で
どのくらい助走をつけて
地面を蹴ったんだろう
『ギフト』ポルノグラフィティ
ポルノグラフィティに『ギフト』という楽曲がある。
ひどくみすぼらしいギフト(=才能)を与えられた主人公が、それでも不相応に夢を追いかけるメッセージソングである。ここに描かれているのも「羽」ではなく「翼」だ。
どこぞのアイドル事務所が一番最初に目指す晴れ舞台のことも「W.I.N.G.」って言うんだっけ?
ずっと羽を欲しがっていた。
けれど、けれど、違うんだ。
もう、ある。
私には、ある。
他の誰でもない、“私自身”が、そう教えている。
昨日までの殻を破って
今を越えて明日に繋いでいくように
蝶は完全変態の昆虫であり、蛹を経由して成虫へと至る。変態の最中、蛹の中は液体で満たされ、完全な無防備を曝け出す。
誰もいない海底で、自分自身を曝け出した、この瞬間――
主人公は孵ったのだ。
その背中に『翼』を宿す、かくも美しき蝶へと。
胡蝶の夢
数秒間の未来遊泳
泡沫に消える思い出たち
この両手に抱えきれない程溢れて
この曲は”3層構造”だと思っているんです。文字だと分かりづらいので下手くそなりに頑張りました。見てください。

「数秒間の未来遊泳」とは、まさに主人公が「空を泳いだ瞬間」。今(深層)も過去(表層)も「泡沫に消える」ほどのスピード感で全力疾走しているのだ。
ここで冒頭に除いた”一点”について触れようと思う。何故、OVAの締めが『Flyers!!!』だったのか、についてだ。
それは『飛べない僕は泳いだ』という楽曲が、
強く地面を蹴って 長く助走をとった 悩みなんて 潮に流しとけ
みたいなストーリーだからであり、そして何より『Flyers!!!』が
終わらない! 誰とも違うストーリー
夢みる こころにツバサあげよう
自分自身に『翼』を授ける楽曲だから、ではないかと思うんです。
……ほんとミリアニは恵まれてるよ。最後まで思想たっぷり詰め込んでくれる監督に出会えたんだもん。もうそろそろ口座番号教えといてほしい。てか教えろ。夏のボーナスくらいならおブッパさせてくれ。
そうさ 飛べない僕は泳いだ
暗い世界を照らす光へと
ながいながい夢から目覚めて
僕は今 息をしている
そしてラストパートへ。ここエグイんすよ。いろんな解釈ができて。
さっきから「空を泳いだ」前提で話してんですけど、このパートのおかげで「夢オチエンド」の可能性が出てくるんすよね。主人公は「空を泳いでない」可能性があるってことです。
陽光さえ届かない深層を「照らす光」ってなんだろうか?そんな都合のいいもんあるんでしょうか?
心の奥で小さな炎がゆらめいて
しまいこんだ希望を照らすんだ
たとえ誰かの一番じゃなくても
輝きたい
そんな都合のいいもんあるんすね。
暗闇だからこそ妖しく輝く「指針」ってやつでさぁ。
楽曲に関しては細かなオーダーをしていないらしいけれど……たぶんしとるでな。『未完成のポラリス』オタクが悪さしとるで、こりゃ。
てなわけで、夢オチエンドとすると『未完成のポラリス』っぽさ感じるんですよね。
あと「海底で眠って、目覚めたら陸の上」みたいなシチュエーションって、まんま『産声とクラブ』を連想させる。そうすると「僕は今 息をしている」。このフレーズ、何やら意味深じゃないですか?
そんな訳で解釈に余地のある素晴らしいエンディングパートだと思う。
好きな解釈で愉しんでみてはいかがでしょうか?
まとめ
君も夢の中で鳥となって天空に翻り、また魚となって深淵に沈んだことがあろう。今こうして話している僕と君は、果たして目覚めているのか、それとも夢見ているのか、誰も確たることは言えない。
『荘子』
色々と語ってきましたけれども、本曲は『荘子』をテーマにしてんじゃないかと思ってます。荘子と言えば「胡蝶の夢」ですね。
はたして自分は、蝶になった夢を見ていたのか。
あるいは今の自分が、蝶の見ている夢なのか。
そんな疑問を投げかける説話ですが、荘子曰く「そんなことはどうでもええ」とのことらしい。小難しく言うなら「万物斉同」。蝶になろうが人間になろうが、自分は自分だろ、ってことだ。
美也、あるいはマイペースユニット。
彼女らのテーマとして、これ以上なく適したテーマのように思う。
思えばそもそも、ミリオンライブ自体がそんなカンジだね。
「なりたいにワガママ」で、「やりたいにワガママ」なコンテンツだ。
ミリオンきってのわがままボーイの言ってたことが本当なら、いつか期待してててもいいんだろうか?
とっておきの「ワガママ」ってやつをよ。



コメント